7歳になるまではパパと呼ばせてあげる

4年かかって離婚したダメ男の物語。フィクション。題名は、元妻に言われた一言。

×2 ダメ男、離婚を告げる

話は4年前のクリスマス前に遡る。

 

子どもを寝かしつけ、そのまま寝ていた僕は、妻であったダメ子に起こされた。時刻は午後10時を過ぎたころだったか。

 

ダメ子「この薬の袋は何?」

 

見覚えのある薬の袋。それは心療内科から出されたもの。

そう、当時、僕は、ダメ子からの度重なるクレームやプレッシャー、お小遣いの減額などで相当参っていた。参っていたというか、若干病んでいた。

仕事が手につかず、ダメ子と顔を合わせたくないため、家にも帰れず、会社帰りに公園で家の明かりが消えるのを待っている日々。心も体も休まることはなく、日に日に僕の表情が曇っていった。

 

ある日、ネットで「帰宅拒否症」という文字を見つけ、「ああ、僕は病気なんだ」と認識し、近所の心療内科に駆け込んだ。

 

そこで、貰ったのがこの薬である。

 

しかし、腑に落ちない点がある。

 

この薬、私の仕事カバンの中に入れており、当然、ダメ子には薬の存在はもちろん、心療内科に行ったことは知らないはず。

名探偵でない僕にもわかることだが、このダメ子、日々、私の仕事カバンをチェックしていたのだ。

 

ダメ子「質問に答えて。この薬は何?どこでもらってきたの?」

 

いつも通りの高圧的なスタンスで僕に聞いてくる。

それが人に物を尋ねるときの態度かい?袋に病院名が書いているからググレカス、なんて言う余裕はない。何を言われても言い返すことなく耐えて過ごしている大多数の日本のお父さん達ならわかってくれると思うが、ダメ子が怖いのだ。いや、本当に。饅頭怖い的な意味も全くなく。

 

「いや、これは・・・」

 

僕は口籠りながら、頭をフル回転させて、ダメ子の追加質問への対策を練る。気に食わない回答をしようものなら、質問という名のクレームが嵐のように来ることは分かっている。

 

ダメ子「そうやって考えてばかりで答えない。何の薬か答えるだけでしょう?グズグズして。最近、保育園への送りが遅くなってるって先生から聞いているけど、何しているの?私に隠れてコソコソと。先生や周りのお母さん方に私が恥をかくの分かってる?」

 

また話が脱線した。ダメ子は答えを聞く前に、僕へのクレームを始めた。コミュニケーションが足りないと言うダメ子は、何が離婚原因か未だにわかっていないだろう。

 

この日は12月22日。もうすぐクリスマス。

今考えると、子どもの好きなプラレールを準備しており、子どもの喜ぶ顔がみられることが心の支えだったのかもしれない。

 

ダメ子のクレームがまだ続いている。

10分くらい続いたクレームと僕を否定する言葉で、何とか耐えていた心の支えが折れたような気がした。

 

ダメ子のクレームを遮って僕は答えた。

「辛いんだ。本当に辛いんだ。」

 

僕はダメ子に初めて見せる顔と初めて聞かせる声で答えた。

 

僕はゆっくり続けた。

 

「君との生活が辛いんだ。今まで耐えてきたけれども、もう無理だ。おかしくなっているんだ僕は。その薬は心療内科に行ってもらったものだよ。今日行ったんだ。このことは言うつもりはなかった。このまま僕が治れば、いつもどおりの生活に戻れると思ったから。」

 

ダメ子「どういうこと?仕事が大変なの?」

 

「仕事が苦しいんじゃない。仕事には満足している。はっきり言わないとわからないようだね。僕が辛い原因は君だ。子どものことがあるから、ずっと我慢してきた。でも、もう無理だ。離婚しよう。」

 

ダメ子は震えていた。それは悲しかったからなのか。それとも彼女のプライドが傷ついたからなのか。